彼岸花――曼珠沙華(まんじゅしゃげ)。
盛りを三日ほど過ぎた今日、その余韻を確かめに豊田市・逢妻女川の堤を歩いた。
仏教の経典によれば、天から赤い花が降るとき、それは吉兆の兆しであるという。
まるでその言葉どおり、川辺の土手一面に赤い光が舞い降り、風の中で静かに燃えていた。
彼岸花は、葉と花が決して同時に現れない。
その特性ゆえに、人はそこに「生と死の隔たり」や「現世と彼岸の境」を見る。
孤高に咲く姿には、どこか寂寞とした気配が漂う。
韓国では「相思花(そうしばな)」と呼ばれ、互いに思いながら決して逢えぬ存在の象徴とされている。
この花もまた、中国大陸の生まれだ。
けれど、私が中国にいた頃は、その名も姿も、記憶の片隅にしか残っていなかった。
改めて調べると、彼の地では「石蒜(せきさん)」「红花石蒜」「一枝箭」「无义草」「龙爪花」「蟑螂花」など、実に多くの別名で呼ばれているという。
それほどに、人々の心の中でさまざまな意味を託されてきた花なのだろう。
今日、私は写真を撮りながら、
欲と煩悩の此岸(しがん)と、悟りの世界である彼岸(ひがん)を、
何度も行き来したような心持ちになった。
だからこそ、正式に三途の川を渡るのは急ぐ必要もなく、私には――70年後くらいでちょうどいいと思う。






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