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定年後の働き方――「長い老後」をどう設計するか

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「60歳で定年したら、あとはゆっくり暮らす」――そんな人生設計は、もう現実的ではありません。

平均寿命が延び、65歳以降も働く人が増えた今、定年は「仕事人生の終わり」ではなく、働き方を再設計するタイミングです。考えるべきは、健康寿命・制度・お金・仕事の見つけ方・事前準備・注意点の6つ。この記事では、そのポイントを整理します。

1. 人生100年時代

厚生労働省「令和7年簡易生命表」によると、2025年の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳。65歳時点の平均余命は男性19.68年、女性24.52年で、65歳を「老後の始まり」とすると、男性で約20年、女性で約25年が続く計算になります。

項目男性女性
健康寿命72.57歳75.45歳
平均寿命81.35歳87.33歳
寿命中位数84.13歳90.17歳
75歳まで生存する割合76.0%88.1%
90歳まで生存する割合26.7%50.8%

※「寿命中位数」とは、出生者のちょうど半数が生存すると期待される年数です。

注目すべきは、平均寿命と健康寿命の差です。「何歳まで働くか」だけでなく、「健康な状態で何歳まで働けるか」を意識する必要があります。
また、資金枯渇を防ぐための資産形成(資産寿命の延伸)も大きな課題となります。

なお国際比較では、日本の平均寿命は世界平均(男68.9/女74.0歳)、中国(76.1/81.2歳)、米国(76.5/81.4歳)、韓国(80.8/86.6歳)などより高く、世界的に見ても長寿国です。

2. 定年・再雇用制度

日本の法律上の定年は原則60歳以上と定められています。
高年齢者雇用安定法に基づき、定年を60歳としている企業でも、希望者全員を65歳まで再雇用などで働かせる義務があります。
70歳までの就業機会の確保は、現在のところ企業の「努力義務」とされています。

再雇用では雇用形態が契約社員などに変わり、役職・仕事内容が変化するだけでなく、給与も下がるのが一般的です。大卒の再雇用社員の平均年収は約300万円で、定年前の半分~7割程度になることが多いとされます。

3. お金の話――退職金・年金・知っておきたい制度

定年後のベース収入

退職金

(大学・大学院卒、厚労省「令和5年就労条件総合調査」)

退職理由退職給付額
早期退職優遇2,266万円
定年退職1,896万円
会社都合退職1,738万円
自己都合退職1,441万円

※あくまで統計上の平均値。企業規模・勤続年数・職種などで大きく変わります。また、政府や多くの企業は終身雇用を前提とした退職金制度を縮小している動きがあります。

年金

厚生年金(基礎年金含む)の2023年度平均値は男性約16.7万円、女性約10.7万円/月。国民年金のみの場合は男女とも約5.8万円/月程度。実際の額は加入期間や報酬、受給開始年齢などによって異なるため、自分自身の見込額の確認が必要です。

退職後に重くのしかかる「社会保険と税金」

医療・介護に関する制度、健康保険

退職前に親族のため、または退職後の自分のための老後の医療・介護に関しては、介護休暇や、介護休業、介護休業給付金、傷病手当金、医療費控除、高額療養費制度、後期高齢者医療制度、障害基礎年金、障害厚生年金などの制度があります。また、退職後の健康保険はおもに「家族の扶養に入る」「任意継続を選ぶ(最長2年間・全額自己負担なので約2倍の負担)」「国民健康保険に加入する(前年の所得に応じて決まるため、退職1年目は現役時代の給与ベースで高額になる)」の3つの選択肢から選びます。家族の扶養に入られると一番理想だが、入られない場合に退職なら1年目「任意継続」、2年目以降「国民健康保険」がお得です。

退職翌年の住民税

前年所得を基準に課税されるため、収入が減った翌年の住民税負担に要注意。

要注意!働き損になる「在職老齢年金」の壁

65歳以上で働きながら受給する場合、給与と年金の合計が基準(2026年度は月65万円)を超えると年金が一部・全額停止されるという在職老齢年金の壁に要注意。

資産寿命を延ばす仕組み(企業年金・DC・iDeCo・NISAなど)

資産形成(資産寿命の延伸)のために、公的年金だけでなく、下記制度も現役時代から検討・活用した方が良いでしょう。

  • 企業年金
  • 確定給付企業年金(DB)
  • 確定拠出年金(DC)
  • iDeCo:掛金が全額所得控除され節税に。運用益・分配金も非課税。受取時(原則60歳以降)は、退職所得控除(一時金)や公的年金等控除(年金形式)を使い分けることで税負担を最小限に抑えられる
  • NISA:運用益・分配金が恒久的に非課税。受取時の税金はゼロで、いつでも売却・引き出し自由

ほかに知っておきたい制度

  • 退職金とiDeCoの受取順:受け取り方(19年ルール/10年ルール)によって税負担が変わるため、事前のシミュレーションが有効。
  • 加給年金:いわば「年金版の家族手当」。厚生年金に20年以上加入し、生計を維持する65歳未満の配偶者または18歳に到達した年度の末日までの間にある子がいる場合の上乗せ給付。自動的には支給されないため、自分で年金事務所または年金相談センターへ申請が必要。
  • 在職定時改定:65歳以上で厚生年金に加入して働くと、毎年10月に加入実績が年金額に反映される。

結局、定年後の月収はどう変わるか

約4,300万人の労働者を母集団とした年齢別の平均月収(厚労省「令和7年賃金構造基本統計調査」)は次の通りです。

年齢男性・正社員男性・非正社員女性・正社員女性・非正社員
60〜64歳39.1万円31.1万円31.0万円22.8万円
65〜69歳34.2万円26.9万円28.8万円21.0万円
70歳以上31.0万円24.3万円27.1万円19.7万円

年齢が上がるほど収入は下がる傾向にありますが、定年後は「年収の最大化」だけが目的とは限りません。実際、ある調査では定年後の就労者の8割以上が週20時間未満の勤務を選んでいます。収入より健康維持や社会参加を重視する働き方も、有力な選択肢です。

4. お金以外の視点――「孤独」と「働く意味」

定年後の仕事には「収入」だけでなく、人と会う、社会との接点を持つ、役割を持つ、生活リズムを維持するという意味もあります。

実際、「意欲を持って働き続けた人」は「完全に退職した人」より生活満足度が高いという分析がある一方、「お金のためだけに働く人」は満足度が低下する傾向も。「いくら稼ぐか」だけでなく「なぜ働くのか」が、定年後の働き方を左右します。

5. 定年後の5つの働き方

  1. 企業内での再雇用・継続雇用 2章でも紹介した、最も一般的な選択肢。専門知識や社内事情を活かせる一方、給与や役職は下がりやすい。
    • 例:元ITエンジニアが60歳で再雇用され、新人教育やシステム監査支援を担当する
  2. 他社への再就職 経験・専門知識・人脈を評価され、シニア人材として別企業へ転職するケース。
    • 例:製造業の元課長 → 品質管理アドバイザー
    • 例:金融機関の元支店長 → 不動産会社の契約サポート
  3. 自営業・フリーランス これまでの人脈を活かして独立する道。収入の不安定さや、営業・税務・社会保険への対応が課題。
    • 例:公務員から独立してカフェを開業
    • 例:元広告代理店ディレクターが制作コンサルタントとして元勤務先などから案件を受注
  4. アルバイト・パート フルタイムが負担な人向け。定年後就労者の約35%が飲食・小売・物流などでパート勤務をしている。
    • 例:元銀行員がコンビニで週4日、1日4時間の早朝レジ業務を行う
  5. Uターン・Iターン就職 地方移住して働く選択肢。自治体の移住支援制度(移住相談窓口や、移住祝い金、引っ越し支援金、起業支援など)もあるが、住居・医療・交通、買い物環境なども事前確認が必要。また、いきなり縁のない過疎地へ移住するのではなく、例えば生活コストを抑えつつも都市部の利便性が残る郊外(ベッドタウンなど)へ移住し、リモートワークや週3日の勤務でゆとりを持って暮らす、といった選択肢も人気です。

定年前とまったく違う仕事を始める人は4人に1人というデータもあります。

自分に合う働き方を見つける3つの軸

軸こんな人向け
収入重視住宅ローンや教育費が残っている → 転職・専門職・フリーランスも検討
健康・生活重視経済的に余裕がある → 週2〜3日の短時間勤務で趣味や家族との時間を確保
やりがい・社会参加重視経験を活かしたい → 人材育成、コンサルティング、地域活動など

6. キャリア準備・副業・資格、教育訓練給付制度・手当

定年前に、人脈づくりや、先輩に話を聞く、異業種の人と交流する、副業を経験する、資格を取得するなどの準備を早く始めるほど選択肢は広がります。

副業経験を積むにはビザスク、サンカク、スキイキ、ランサーズ、ココナラ、ストアカなどのクラウドソーシングやマッチングサービスも活用できます。

実務に直結しやすい資格:介護福祉士、ケアマネジャー、日商簿記、宅地建物取引士、医薬品登録販売者、電気工事士 など
独立・開業につながる資格:税理士、社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャル・プランナー など
その他のスキル:語学力、各種車両の免許に加え、Web開発スキル、データ分析スキル(PythonやTableauなどを用いたデータの可視化)や、生成AI活用(プロンプトエンジニアリングやAIコーディング)など、IT・デジタル領域の専門性を高めておくと、体力に依存しない働き方の選択肢が格段に広がります。

重要なのは資格取得そのものより、取得後にどんな仕事につなげるかです。

なお、厚労省の「教育訓練給付制度」を使えば、対象講座の受講費用の一部(最大80%、上限64万円など、講座の種類による)が支給される場合もあります。受給要件は変更されることがあるため、申し込み前にハローワークで最新情報を確認しましょう。

また、下記手当をもらえる可能性もありますので、退職前や再就職時にハローワークで確認しておくと良いです。

  • 65歳未満で退職した場合は、一定の条件を満たせば、求職活動中に雇用保険の基本手当を受け取ることができます。
  • 早期に再就職した場合には、条件を満たせば再就職手当などの制度を利用できる場合があります。
  • 再雇用・再就職によって賃金が大幅に低下した場合には、高年齢雇用継続給付の対象となるケースもあります。

7. シニア人材が求められる業種・能力

2026年のマイナビ調査では、65歳以上を雇用する企業は61.0%(前年比+3.1pt)。業種別では警備・交通誘導(83.1%)、清掃(76.4%)、介護(70.3%)、コンビニ・スーパーでの販売・接客(69.1%)などでシニアの雇用率が高くなっています。

一方、企業がシニア採用で重視する能力は、体力(44.5%)、判断力(39.5%)、理解力(39.2%)、コミュニケーション能力(35.7%)、順応性(35.5%)の順。「過去の肩書」より、今の心身の状態や柔軟性が評価されます。

8. 注意したいリスク

  • 健康リスク:60代後半の就労者の労災発生率は、若年層の1.8倍というデータもあります。仕事を選ぶ際には、給与だけでなく、身体への負担、勤務時間、通勤時間、休憩時間なども確認しましょう。
  • デジタル対応:ZoomやMS365、Google Workspace、生成AIなどのツールに不安を感じる60代以上は約42%。今後はデジタルスキルが仕事選びにも影響します。
  • 悪質な求人:闇バイトや、賃金不払い、サービス残業、長時間労働、厳しいノルマなどのブラック企業には要注意。「簡単な仕事なのに高収入」は特に警戒が必要です。

9. 新しい職場で気をつけたいこと

再就職先では、以前より立場が大幅に下がり、若い上司の下で働くことも珍しくありません。
人間関係面で心得ておきたいポイントは以下の通りです。

  • 先輩ぶらない
  • 自発的に学ぶ
  • 職場のキーマン・先生方を見つける
  • 社風や職場の空気に合わせる
  • 前職の悪口を言わない
  • 頑張りすぎない
  • 新しい自分を楽しむ

最も重要なのは、「前の会社での地位・癖を持ち込まない」こと。新しい職場での自分を一から作る姿勢が求められます。


まとめ:定年は「終わり」ではなく「第二のキャリア」の始まり。早めの準備を!

定年は人生のゴールではありません。重要なのは『何歳まで働くか』ではなく、『どのくらい働き、どう健康を維持し、どんな生活を送りたいか』を自分で決めることです。

また、定年後になってから「第二のキャリア」を考えるのではなく、50代のうちから準備を始めることが、「豊かな老後」への近道です。

定年前にやっておきたい5ステップ

  1. 老後に必要なお金を計算する(生活費・住宅費・医療費・介護費・趣味など)
  2. 年金と退職金を確認する(ねんきん定期便、企業年金など)
  3. 自分の市場価値を確認する(厚労省「job tag」などの自己診断ツールも活用)
  4. 資格・スキルを身につける(教育訓練給付制度の活用も検討)
  5. 定年前に「小さく試す」(副業・ボランティア・短時間の仕事などで自分に合う働き方を再確認)

※参考資料

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